野球しないんだけど、金属バットもらった。　活用方法教えろ

https://digital.asahi.com/articles/ASNBJ4QNPNBHUCFI008.html

「ママ死なないよね」への答えは　がんになった一人親

30代の女性Fさんは9歳の息子と暮らす一人親。いわゆるシングルマザーです。3年前に胃がんと診断され胃の大部分を切除し薬物療法を続けてきましたが、1年前に転移が確認されました。

　息子に「治るの？」と聞かれるたびに力強く「治るよ！」と答えてきたFさん。しかし転移後は副作用もあって見るからに元気がなくなり、「ママは死なないよね」と尋ねられ、「どう答えたらいいのか」と相談に来ました。

　子どもから「治るの？」「死なないよね？」と問われるのは、病気を抱え、自らも不安な親が最も答えにくい質問で、また相談が多い内容です。私は「迷う時は、直接的に死ぬかもと言うのではなく、『言える本当のこと』を繰り返し伝えて下さい」と話しました。

　「言える本当のこと」とは「治りたいから、つらい治療だけど、続けている」「半年後の大会を応援に行きたいから、病院の先生が勧めることをしている」のように現状に即した答えのことです。

　治療に耐えられる体力を回復するため、2週間入院して栄養を補うことになりました。それまでの短期入院では、同じアパートに住むママ友らに頼んでいたのですが、今回は長いので、息子の親友の親に病状を説明し、入院中は泊まらせてもらうことに決めました。

　退院予定日はちょうど息子の10歳の誕生日。しかし、回復ははかばかしくなく、退院を延期せざるを得ませんでした。「退院が延びた。ごめん」と伝えると「これまでで最悪の誕生日」と返されてしまいました。

　「私はダメな母親です。息子にいろんなことをずっと我慢させた上、約束を守れない自分がふがいない」「いつもは心配するそぶりを見せない息子が、今回は病院に向かう私の車の後ろを、車が見えなくなるまで必死で追いかけてきました。何か感付いているのでしょうか」と涙ぐみました。

　病院でもできることを探し、誕生日カード作りを提案しました。もともとサバサバした女性で「そういう手作りは苦手だから」と言っていたFさんでしたが、思い直してカード作りを始めました。「こんなの初めてで、恥ずかしいな。息子がドン引きするんじゃないかな」と言いながら、シールで子どもの名前を表紙に飾り、開くと息子が熱中する野球のバットやグラブが飛び出す仕掛けです。具体的な言葉は分かりませんが「本気メッセージを書きました」と満足そうでした。思いがけず誕生日カードをもらった息子はとても喜んでいました。

　1週間後、Fさんは退院。その後、Fさんは「かなり悪いみたい」と息子に伝え、息子はいつものように「死なないよね」と尋ねました。「死にたくないから頑張っている」と答える母に、息子は一言「ガンバレ」。「いつも隣にいるのが当たり前」で、母と息子で支え合って生きてきたFさん親子らしい会話の中に、互いの万感の思いが込められていました。Fさんは「伝えられて本当によかった」と満足そうでした。

　カードを贈って数カ月、病状は悪化しました。在宅診療を受け、息子、親戚、友人に見守られながら旅立ちました。息子は近くに住む伯母に引き取られていきました。（構成・畑川剛毅）=全7回