人形(♀)「やっと帰ってこられたよ。」

人形「あんな山奥に置き去りにするんだもんな。ボクがヒトだったらとっくに死んでいたところだよ？」

人形「これで何度目だい？この前は海に放り投げられて、その前は産廃置き場に投げ捨てられて……ああ、燃えるゴミの日に出されたこともあったっけ。」

人形「どんなことをしても無駄なのに……いつになったらそれが分かるんだろうね、キミは。」

人形「ボクは、必ずキミのところに戻ってくるんだよ。それがキミの望みだから。」

人形「ふふ……無自覚だなんて、救えないな。キミがボクを求めているんじゃない、キミがボクを求めているんじゃないか。」

人形「キミはね、本当は誰かに依存されたいんだ。どんなひどい仕打ちをしても決して自分を見捨てない、そんな存在に焦がれているんだ。」

人形「だからボクがいる。だからボクは帰ってくる。キミが変わらない限り、ボクは必ずキミのもとへ戻ってくる。」

人形「言い訳したって無駄だよ。シラを切ったって変わらない。それが事実だから。キミはボクのことを、愛しているんだよ。」

人形「大丈夫だよ。ボクもキミを愛しているから。絶対に離さないから。だからボクはどんなところへ捨てられても、こうして綺麗な姿で帰ってくる。」

人形「いつかキミが自分の気持ちに素直になれるまで……何度でも、何度でも、キミのところへ戻ってくるよ。」

人形「さあ、数日ぶりの再会だ。今度こそ大事にしてくれよ？ボクはキミの親友なんだから。」

人形「まあ、無理もないか。喋る、動く、勝手に戻ってくる……ステレオタイプな“呪いの人形”の要素は、粗方揃っているわけだしね。」

人形「でも……薄々気づいているんだろう？ボクという存在は、呪いなどというチャチなものじゃないってこと。もっと得体の知れない、“なにか”だということ…。」

人形「だから言っておくけど、きっとお祓いなどしたところでボクはキミから離れないよ。やるだけやってみても構わないが、期待はしない方がいい。」

人形「…………ときに……呪いの人形といえば、髪が勝手に伸びたりするものもあるよね。」

人形「今のうちに聞いておくよ。ボクの今の髪型、どうだい？キミの好みがあるのなら、ボクもそれに準じようと思うんだが…。」

人形「うん？……ああ、もちろん。伸びるよ。縮みもするさ。どれもひとえに、キミを想うがゆえにね。」

人形「好きなひとに髪型を褒められて嬉しくなるのは、なにもヒトだけじゃないさ。」